ユニカイエ

ハイライトとデザイン事始めの巻

ちまたに広告がでまわっているので、ご存じの方が多いと思うが、「ハイライトのメンソール」がでた。ハイライトのラベルをグリーンにしたデザインなのだが、これをみてびっくり、
「これ、俺がつくったやつじゃん!」
 いゃ、もちろん俺がつくったはずはないのだが(笑)、それにまつわる十何年か前の思い出というのがあるのだ。

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それはグリーンなハイライト

 わたくし、ひるますはその頃、漫画家をめざしてフリーターのようなことをしてたのだが、その勤め先が「写 植屋さん」だったことが、いまの仕事につながっている。「写 植」といっても知らない方もすでに多いだろうが、昔はDTPがなかったので、本や広告をつくるのに「写 植」を使ったのだ。その前は「活字」を使った。これは見たことなくても知ってるだろう。文字がハンコのように凸 型になった、あれだ。写植というのはそれを進化させたようなもので、ガラス板を黒く塗ったものに文字の形が透けていて、これに光を当ててレンズを通 して拡大縮小して、印画紙に焼きつける、というもの。活字を一文字一文字ひろって、本の形に組み上げることを「組版」という。活字を組む、というのはまさに、肉体的に「組む」というのが実感できるが、写 植というのも、また一文字一文字、文字を「撮影」していくもんなので、やはり「カラダで組んでく」という感じだった。
  といっても、私がその写 植機を動かしてたわけではない。そういうのは職人的な技術がいるので、バイトの俺にできるものではないのだった。で、私がなにをしていたかということになるのだが、こういうことを思い出してみると、もっと書いておかねば、ということがたくさんあるような気もする。たとえば、文字を写 植でつくるとして、じゃ、写真とか図とかはどうなるのよ?、フォトショやイラレでやったはずはないでしょう?という疑問がみなさん、ふつふつと感じられるのではないか?と老婆心というか、老爺心に思ってしまうからなのだ。
  うだうだ書いてるヒマはないので、結論から申し上げよう。当然、イラレもフォトショもないのだ。広告一枚つくるにも、文字が写 真にのってたり、色ベタの上に白抜きになってたりといろいろな形に組み立てられているわけだけど、イラレやフォトショというのは、それをいわば「見たまんま」に作ってく。しかし、昔はそうではなくて「版下」をつくった。「版下」とはよく言ったもので、いわば「ハンコ」の下絵だ。つまり白い紙に黒い文字と黒い罫線、場合によっては黒ベタなどがのった「白黒」の図。その原図にトレペをかけて「ここは何色ですよ(といってもCMYK何%とか、DIC何番ベタとか)」とか、ここは写 真が入るとか(写真は基本的にアタリのみ)」といった「指定」を書き込んだものが「版下」なのだったのだ。これを作るとこまでの仕事がデザイン会社の仕事で、それを仕上げる人をフィニッシャーと言った。いまでいうオペだな。
  フィニィッシャーというのも職人で、ようするに今ならイラレでぽんぽん引ける「罫線」を上手く書ける人のことだった(いや、もっといろいろできるんだが、笑)。からす口という特殊ペンを使って0.1ミリ単位 の罫線を描くのだ。私らのころは「ロットリングペン」という便利なものがあったが、これも高いワリには使い勝手が悪くて、それだけに使いこなす人たちのオタク化も深まっていったものである。ちなみに、マンガの道具にこのロットリングを持ち込んだのが「ひさうちみちお」だが、ようするにデザイナーだったので、手許にある道具を使っただけのことで、いまならピグマとかコピックを使うようなもんであった。
  話はひたすらそれていく。その版下、もちろんそのまま印刷できるわけではない。その版下から「ハンコ」を作らねばならないのだ。そのハンコにあたるのが、フィルムであり、そのフィルムから作る刷版という金属板なのだ。もちろん版下の「指定」を読み込んで、印刷できるハンコの状態にするのも、パソコンではなくて人間が手作業でやっていた。その人たちを「製版屋」と言った。印刷屋とはまた別 の人たちである。この人たちは、版下上の指定を読み込んで、それを職人的にフィルム上に「実体化」していくわけだ。たとえば版下上に、四角い線があって、そこに色の指定が何%と書いてあれば、版下を撮影したフィルム上の、その部分に何%かの「アミ」をその形に切り抜いて貼る、そんなことをやっていた。写 真の切り抜きなどもこの人たちの仕事であった。
  で、話はようやく戻って、私が何をしていたか、というと、大きな範囲でいうと、その「版下」を作っていたのだ。といってもデザイナーでもフィニッシャーでもなく、フリーターだったので、その版下のための素材をつくっていた。具体的にいうと、写 植の加工とか、その他、会社のロゴなどの「紙やき」だ。「紙やき」というのは、巨大なカメラのようなもので、写 植や版下を拡大縮小して、印画紙に撮影するもの。写植は100Qくらいの大きさまでしか打てないので、それより大きい文字がほしいときは、それで引き延ばしたり、版下の大きさ違いのがほしいときにそれを使うのだ。あと、会社のロゴなど支給されている原版(清刷)を、版下の中にデザイナーが決めた大きさにいれるために、拡大縮小して撮影するのにも使う。いまならイラレやフォトショで拡大縮小するだけのこと。それと当時、はやりの「ぼかし文字」というのも、この「紙やき」で作った。写 植をわざとピンぼけで撮影するのだ。いまなら、フォトショの効果や選択範囲のぼかしで簡単にできる。
  それはともかく、そのバイト先では、そんな「紙やき」や文字の校正などをしつつ、それ以外の仕事がまわされるようになってきたのだが、それがプレゼンの仕事。今ならブレゼン用のデータをつくるのも実際の印刷用データをつくるのも、ほぼ一緒(違うのは画像の解像度くらい?)のもんだが、そのころはまったく違う。データを気軽にカラープリントするなんてこともままならぬ からだ。いまはカラープリントと実際の色校正の色が違うなんてことが悩みの種だったりするが、当時はその悩むことすらできないという状況なのだ。で、カラープリントできなきゃど〜するのかというと、もちろんプレゼンのために、さっき言った「製版」をつくって、実際に印刷して色校正みたいなもんを出すわけにはいかない。というわけで、ニセモノをつくるのだ。
  ニセモノってのは、よ〜するに見た目印刷物に見えるけど、実は印刷物ではないってこと。ディレクターがデザイナーに手書きのカンプを渡してこれやっといて、なんてことはよくある?が、クライアントに手書きのカンプを渡して「ま、こんなんですけど」では話にならない。というわけで、ニセモノをこしらえるわけだ。て、たとえば広告のニセモノを手作りするとなったら、まず写 真は当時まだ高価だったけど、カラーコピーや実際に引き延ばした写真を使うとして、文字をどうするか。写 植をはったのでは、あまりに出来損ないの版下っぽいし、そもそもカラーではないし、写 真の上にのせたいとなったら、文字の周りの白い紙をどうしたらいいのか。というわけで登場するのが、ようするにシールである。
 文字をシール化してやれば、その写 真の上にはれるではないか、ということで、プレゼン用のニセモノづくりではこのシールが多用されたのであ〜る。写 植からつくるシールにもいろいろある。まずはカラーキー。これは透明フィルムに赤や青、黄色などの基本的な色が塗られているものに、写 植をやきつけて、しかるのちに溶剤でやきつけられた文字部分以外を溶かしてしまい、透明フィルム上にカラー文字が残る、というもの。簡単で安いのが利点だが、まわりにフィルムが残るので、ニセモノをつくった時に、文字のまわりがテカテカしてみっともない。あと色数も少ないのだ。
 で、文字部分のみシールで転写 しようというのが、クロマティックというやつ。この手のはいろいろなメーカーから出てるのだが、私のとこではこれをメインに使っていた。これは専用シートにインクをコーティングし、それにさらに溶剤をコーティングして焼きつけ、余分なとこを溶かしてから、「のり」をコーティングして転写 シートのでき上がり、という最初から最後までハンドメイドって感じの手のかかるシナもの。これがけっこうテクニックがいるのだが、わたしはこれが上手かったので、これ専門みたいになってしまったのだった。とくにこれ、基本色が50〜80色くらいあったのだが、プレゼンでは文字だけでなく会社のロゴなども焼きつけてシール化する必要があり、その場合、コーポレートカラーってのがあって、かなり厳密に色をださねばならないのだった。で、その基本色をいろいろとまぜあわせて、色を作っていくのだが、なんといっても、それ、普通 の人には無理。ま、不器用な俺だが、色の感覚はふつう以上にはあったので、それをうまく作っていったわけだ。あと、インクの色はまぜるとどんどん黒くなっていく、という基本が分かってるかどうかってのもある。いちおう絵具で絵をかく学校にいってたこともあるので、そのへんが飲み込めていたのだった。
 よく憶えてるのは、マクドナルドのロゴ。あの黄色いエムと地の赤い色なんかも特殊な色で、それを調合してつくったりした。あともとのロゴからど〜やって、焼きつけるためのフィルムをつくるか、というところもいろいろと頭をひねるところ。ようするにフィルムで透明に抜けた部分が色のシールとしてやきつけられるので、いろいろな色の組みあわせでできたロゴの場合、それぞれの色の必要な部分のみを透明に抜いたフィルムをつくらねばならないのだが、それも面 白い作業であった。というわけで、ようやく話は出だしにつながる。
 そんなお仕事のあいまに、俺はいろいろとそのシールを作って遊んでたのだが、そのひとつが件のハイライト。当時、わたしはまだたばこをすっていて、しかもハイライトを愛飲していたのだ。で、なにげにそのハイライトのパッケージを「紙やき」にとり、それをフィルムにして、シールを作成したのだが、その時に、グリーンのシールにしてみたのだった。グリーンにすると、あら不思議、メンソールに見えるではないか…というわれで、さっそく実物のハイライトのパッケージに貼ってみた。で、友だちや会社の同僚に「こんどハイライトのメンソールが出たんだよ」とだまして遊んだのだった。けっきょくほとんどの人はひっかからなかったのだが(笑)。やはりハイライトというとすごい硬いというか、親父くさいというか、そんなイメージがあって、誰もが「まさか…」と思うような時代だったせいだろうか。
 そんなことがあって、まさか本当に、ハイライトメンソールが、あのときのまんまの姿でお目見えするとは…。しかし、今これが出ても、まあそんなに違和感がない、というのは、やはり時代が変わったせいなのか。いずれにしても、感慨深いものがありますねえ。というわけで、つらつら昔のことなど思い出してしまいました。それにしても、あらためてこーしてなつかしく思い出してみると、なにげにバイトしつつ過ごしてきたものの、このときの体験が、いまに続いているのだな、と思わずにいられない。というわけで、ハイライトメンソールをふかす、わたくし、ひるますであった。

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わたくしも久々にたばこふかして…


2004年09月05日 07:29 by hirumas | トラックバック (0)

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