

ひるますHOTLINEは、インタビューや雑談をお届けするひるますの気まぐれコーナー。第4回は、ユニで事務局を引き受けている「日本世間学会」の第10回研究大会のもようをお知らせします。
それにはまず、そもそも「世間学会」って何じゃ?ということから説明せねばならないでしょう。
「世間」というものは、日本人が自然にその中で暮らしている。言葉は誰でも知ってるし、実際、それに即して生きているわけですが、あらためてそれが何なのか?ということは、考えずに生きている人がほとんどだと思います。それでいて、社会とは何か、とか、個人の自立とは何かということを、アタマでは考えはするのですが(とくに学者・思想家・ジャーナリストという人々?)、自分がどっぶりとつかっている「世間」てものをちゃんと考えないと、ほんとうに物事をはっきり考えることにならないんではないか?というのが、この学会の基本テーマといえるでしょう。
そんなことをはじめて言い出したのが、阿部謹也氏。中世ヨーロッパの研究者であり、 一橋大学の学長などもされた方なので、かなり有名。『世間とは何か』という本(講談社現代新書、下段コラム参照)で、世間ということを問いかけました。世間は、御中元や御歳暮に典型的にみられるように、もらったりお返しをしたりという「互酬」の関係でできている。そうすることで何が起きているかというと、阿部さんによると、「共通 の時間」というものがそこにできる。世間の人はその「共通の時間」を生きることになり、「個人」という時間の捉え方ができない。基本的にヨーロッパの「社会」というものは、「個人」を基盤にし、個人の人格にもとづく「契約」として「社会」がつくられているわけですが、そうすると、個人というあり方が存在しない日本には「社会」も存在しない、ということになる。日本には世間はあるが社会はない、と阿部さんは言う。
その後、さまざまな分野の人たちが、それぞれの問題意識の中で「世間」との関わりを対象化しようという動きがでてきました。そういったそれぞれの関心を発表し、切磋琢磨しながら共有・深化していこうという目的で結成されたのが世間学会。これまでの主な発表は『世間学への招待』(青弓社)にまとめられてますので、興味のある方はご覧下さい。
というわけで、今回で第10回となる大会。阿部さん自身の発表もあるというせいか、普段より参加者も多く、今回から事務局を引き受けたユニとしても、やりがいがあるというところです。大会自体は年に2回、6月と11月に おこなわれており、それぞれ2名が発表することになってます。今回は阿部さんと九州工業大学の学生さん、尼子大輔さんの発表。
まず尼子さんの発表は「世間とおたく」というテーマ。「おたく」の解説からはじまり、おたくと世間の関係、その差別 や排除の理由などを資料をもとに分析していきます。おたくというテーマそのものが、いろいろな問題提起を含んでるというものですから、質問タイムは議論百出という感じで盛り上がりました。わりと「おたく」という存在からほど遠い世代の人が多かったせいか(笑)、自らもおたくの一人という尼子さん(写 真参照)との議論は非常に面白いものがありました。結論的には、阿部さんが意見として語られていたのですが、おたくもまた、世間というあり方に即した一つの生き方であって、世間からの排除・差別 といっても、緊張関係にあるようなものではないのだろう、ということではないでしょうか。
そして阿部さんの発表。テーマは「日本人の歴史意識」というもので、いっけん「世間」というテーマから離れているかに思われるかもしれませんが、これがまさにそれを鋭くえぐるものになっていて、感動しました。ようするに、歴史意識って何なんだというところから阿部さんははじめるのですが、それは自然に生きているだけではなくて、それに対立して、自覚したときに、はじめて生まれるものだということ。つまり世間の中で、その「自然な」流れの中で生きている人にとっては「歴史」なんてものはない。日本人が歴史と直面 したのは、第2次大戦での敗戦くらいだろうというのだけど、それすら「事件(偶発事)」としか意識されていない、と阿部さんは言う。ようするに日本人に「社会」がないのとパラレルに、日本人に歴史はないのだということを、阿部さんは喝破するわけです。
僕自身はこれまで「ひるますの臨場哲学」などで、倫理とか美をテーマにいろいろと語ってきましたが、その中で、かんじんなことは「実存」(生きることの意味みたいなもん)だったんだけど、阿部さんが、ここで歴史意識ということで語ろうとしているのは、まさに実存ということだと思う。「世間」をめぐる問題と自分のテーマがつながったと感じたというのもあるが、このところ仕事やなんやに流されて、見失いかけてたことを思い出させてくれたというのが非常に大きい。阿部さんには感謝というところだ。
その阿部さんの発表だが、すでに文章にまとめられていて、来年そうそうには岩波新書から出る予定とのこと。こちらもぜひご覧いただきたい。というか、私も読みます。
さて、発表もつつがなく修了し、一同は「懇親会」に流れます。今回はユニが懇親会も手配ということで、これまでの高級料理屋から、いっきに「さくら水産」に変更(笑)。こちらも非常に楽しい会となりました。今後はその阿部さんの本が出るほか、すでに「世間の現象学」(青弓社)を発表している佐藤直樹さん(下段写 真参照)の新刊も予定されているということで、ますます内容充実していくことでしょう。参加希望など、お問い合わせはユニまで!

研究者・編集者・教職者など様々な職業の人々がメンバーとして参加。

「世間とおたく」を発表した尼子さん(左)。となりは司会の近藤直也氏(九州工業大学教授)。

「日本人の歴史意識」を発表した阿部謹也氏(左)。おとなりはやはり「世間」についての様々な著書を発表している佐藤直樹さん。
2003年12月05日 14:01 by hirumas | トラックバック (0)
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